Q&A
乳がんQ&A
Q 乳がん検診、マンモグラフィについて教えて下さい。
A 近年、国内での女性乳がんの増加により、以前より増して各方面から乳がんの「早期発見にもとづく早期治療」の必要性が叫ばれています。乳がんの診断に用いられる検査として乳房専用レントゲン検査、マンモグラフィがあります。この検査は乳がんの早期発見に有効なことから、40歳以上の女性は定期的にマンモグラフィを併用した乳がん検診を受けることが推奨されています。名古屋市では40歳以上の2年毎に乳がん検診の補助があり(ワンコイン検診)、また全国的な検診事業として40歳~60歳までの5年毎に行う無料クーポン検診があります。なお、「乳房にしこりを触れる」などの自覚症状があれば、次の検診を待つことなく乳腺外科外来で診察と一連の検査を受けることが必要となります。
Q マンモグラフィでは何をみているのか?
A マンモグラフィ検査では主にしこりの影(腫瘤影)やカルシウムの沈着である石灰化を発見することを目的としています。腫瘤には良性腫瘍と悪性腫瘍(乳がん)がありますが、その形状や辺縁の状況で判定を行います。石灰化の多くは良性の線維腺腫や乳腺症などに伴うものですが、まれに乳がんにより発生するものがみられます。石灰化の形状や分布の状況で判定を行います。これらの所見が検出された場合、良性病変と判断されるものは「放置可」や「経過観察」などの判定となりますが、乳がんを完全に否定できない場合や乳がんが強く疑われる場合には「精密検査が必要である(要精査)」との判断となります。触診では診断できない小さなしこりや石灰化で微細なごく早期の乳がん(非浸潤がん)が発見されることもあります。
Q マンモグラフィによる被ばくについて
A マンモグラフィ1枚の撮影で浴びるX線の量は、1年間に知らない間に浴びている自然放射線量の1/10以下です。1回の検査で受ける放射線量は、東京~サンフランシスコ間の飛行機旅行で浴びる宇宙線とほぼ同じといわれています。40歳以上ではマンモグラフィ撮影による人体への影響は軽微であり、マンモグラフィで得られる救命効果などの利益が大きく上回ると考えられています。
Q どのように乳がん検診を受けるべきか?
A 2004年に厚生労働省から、40歳以上の女性に2年に1度の検診(視触診とマンモグラフィーの併用)を実施するという指針が出されました。基本的には2年毎になりますが、ホルモン補充療法を受けている、家族に乳がんの方がいるなどの乳がんリスクの高い方は1年毎の検診をお勧めしています。また、乳腺の発達した女性ではマンモグラフィで小さなしこりを発見するのに不利な場合がありますので、超音波検査をお勧めする場合もあります。
乳がん検診で「異常なし」の結果を得たならば、入浴中などの機会にご自分の乳房に変化がない、“いつもと同じ乳房“であることを日頃からご自身の手で確認してください。定期的な検診により検査結果の推移・変化をみることも大切ですので、1回の検診で満足するのではなく、継続して受けていただくことも必要であると考えます。
Q マンモグラフィ撮影はどのくらい時間がかかりますか?
A ポジショニングから撮影まで含めて10分程度です。
Q マンモグラフィ検査はいつ受けるのがベストですか?
A マンモグラフィ検査を受ける際は、生理前に乳房が強く張る方は、生理終了後から1週間頃が比較的痛みが少なく検査が行えます。力を抜いて緊張を解いて受けていただくことで、痛みもなく、観察に優れたよい撮影もできます。どうぞリラックスして受けてください。
Q 放射線の被ばくによる危険はないのでしょうか?
A マンモグラフィはX線検査ですので放射線被ばくがありますが、1回の乳房撮影で乳房が受ける放射線の量は、東京からニューヨークへ飛行機で行くときに浴びる自然放射線(宇宙線)とほぼ同じです。マンモグラフィ撮影による被ばく量はほとんど無害と考えていいレベルのもので、撮影によって早期乳がんを見つけることができるというメリットの方がはるかに大きいと言えます。
Q 撮影の時に気をつけることはありますか?
A 食事の制限や前もって服用するお薬などはありません。制汗剤やパウダーなどは良くふき取ってください。撮影の範囲は乳房からわきの下を含めた部分になります。パウダーなどは、がんのサインである石灰化に非常に似て写ることがあります。
Q 検査の結果はいつ分かりますか?
A 結果のご説明は検査後まもなくお伝えいたします。
当クリニックではデジタルマンモグラフィ、デジタル超音波装置を導入し、画像はすべてデータとして管理されています。撮影直後にマンモグラフィ画像は診察室のモニタ画面で診断することができます。診察室ではモニタでご自身の画像をごらんいただきながら、乳房の状態をご説明いたします。
Q 妊娠中・授乳中でも乳がん検診はできますか?
A 妊娠中や授乳中は触診やマンモグラフィでは乳房の状態の把握が難しくなることが多いですが、超音波検査やCTなどその他画像診断を必要に応じて組み合わせて診断を行うことが可能です。定期的な検診はもちろん、何か気になる症状があるときは迷わずご受診ください。精密検査が必要な場合も、妊娠、授乳中の状態に応じて検査を行うことができますのでご安心ください。
乳がん手術の縮小化
乳がんに対する手術の縮小化について (その1)
SL外科・乳腺クリニック院長 伊藤由加志
乳がんに対する手術法は、時代とともに変わってきています。1980年頃に主流であったハルステッド手術は全乳房およびその背面にある胸筋(大胸筋および小胸筋)と腋窩リンパ節を一括に切除する侵襲の大きいものでした。この手術を受けられた当時の患者さんにとっては、患側上肢の機能回復が手術後の大きな辛い問題でした。その後に胸筋の切除の有無は患者さんの予後に影響しないことが証明されたため、1990年代には胸筋を切除せずに全乳房および腋窩リンパ節を切除する胸筋温存乳房切除術が一般的な手術になりました。この頃より乳がんの領域に限ってこれを切除して健常な乳房を残す乳房温存手術が年々増えてきて、2003年頃には胸筋温存乳房切除術の数を超え、最近の手術の主流となっています。このように乳がん手術は徐々に縮小化の方向へ進んできました(図1)。
乳がん手術の目的は2つあります。1つは乳房の中のがんを取り去ることで、乳がんのしこりを含む乳房に対して全切除を行うか、部分的な切除に止めるかという問題があります。もう1つの目的は転移の可能性のある腋窩リンパ節の転移状況を確認することで、これらの切除(腋窩リンパ節郭清)を行うか否かという問題があります。今回は1つ目の問題について解説させていただきます。
図1. 乳がんの手術の変遷(日本乳癌学会ホームページより)


1.乳がんの広がり診断と切除範囲について
乳がんはミルクの通る乳管を構成している乳管上皮細胞から発生します。初期には乳管の中でがん細胞が増殖します(乳管内進展病巣)が、そのうちに乳管を突き破ってがん細胞が周辺組織に浸潤しながら増殖を広げます(浸潤病巣)。実際に乳がんの患者さんを診る際には、硬いしこりを形成している浸潤部分が主な病気の範囲とみなしますが、しこりから周辺にヒゲのような乳管内進展病巣を伴っていることも考慮しなければなりません(図2)。浸潤病巣の範囲はマンモグラフィや超音波検査でほぼ確認できますが、乳管内進展病巣の範囲を評価するためには造影MRI検査が有用です(図3)。これらの検査により乳房内に占めるがん病巣の範囲を把握して、乳房を温存できるか、全切除が必要かを考えます。がん病巣を含めた切除範囲が乳房のおよそ1/4以下であり、切除後に形の整った乳房を残せる見込みのある場合には、患者さんの希望があれば乳房温存手術を行います。その際には、病巣の範囲から1~2センチの安全域を置いてがんの取り残しのないように切除を行います(図4)。

図2. 乳管内進展病巣と浸潤病巣

図3. MRI機器(左)と乳がんの造影MRI画像(右)

がんのしこりである浸潤病巣(A)とこれより乳頭方向へつながる乳管内進展病巣(B)が写し出されている。

図4. 乳房温存手術と腋窩リンパ節の中のセンチネルリンパ節

画像検査で評価したがん病巣の範囲から1~2センチの安全域を置いて部分的に乳房を切除する。
乳がんに対する手術の縮小化について (その2)
SL外科・乳腺クリニック院長 伊藤由加志
「乳がんに対する手術の縮小化(その1)」では、乳房の全切除と部分的切除を判断するための広がり診断についてのお話をしました。今回は、腋窩リンパ節郭清を省略することを目的としたセンチネルリンパ節生検について解説させていただきます。
1.センチネルリンパ節生検について(腋窩リンパ節郭清の省略)
乳腺からつながる腋窩リンパ節は、乳がんの細胞がリンパ管を流れて転移が生じる可能性のある領域です(図1)。リンパ節転移の有無とその個数は再発の可能性を予測する重要な因子(予後因子)で、手術後の薬物治療を考える上でも重要な情報となりますし、転移があれば病巣の除去にもなります。以前は切除した腋窩リンパ節一つ一つを顕微鏡検査で観察することで転移の有無を確認していましたが、現実には半数以上の患者さんには転移はなく、そのような患者さんには結果的にしなくて良い手術をしていたことになります。リンパ節郭清による後遺症もあり、手術後の数週間に限って腋窩部にリンパ液が貯留すること、腋窩部の陥没・変形、手術側の上腕の知覚異常や上肢のむくみ(リンパ浮腫)などで悩まされることもあります。
腋窩リンパ節郭清を行う前の早い段階でリンパ節転移の有無を確認できれば、転移の無い患者さんには腋窩リンパ節郭清を省略できることになります。これを可能にした手技が「センチネルリンパ節生検」で、乳がん手術はさらに縮小化の方向へ進みました。センチネルとは「見張り、監視員」という意味です。
様々な臓器から「がん」は発生しますが、がんとリンパ節をつなぐリンパ管が複数ある場合にはどの経路でがん細胞がリンパ節にたどり着くかを推定することは困難です(図2A)。乳房ではリンパ管がほぼ1方向に限定しているので、最初にたどり着くリンパ節は1個または2個程度で、これをセンチネルリンパ節と言います(図2B)。実際にがん細胞がリンパ管を通ってリンパ節に到着して転移が成立するのであれば、最初にたどり着くセンチネルリンパ節にまず転移が存在することになります。逆に言えば、センチネルリンパ節に転移がなければ他のすべての腋窩リンパ節には転移がないことになります。
センチネルリンパ節生検では、2つの目印をセンチネルリンパ節につけて摘出します。手術前に微量の放射線を帯びた薬をがんの近傍に注射すると、薬の一部がリンパ管を経由してセンチネルリンパ節に流れ込みます。手術中に色素をがんの近傍に注射すると、この一部もリンパ管を経由してセンチネルリンパ節に流れ込んでリンパ節に青い色がつきます。ガンマプローブという機器を用いると、センチネルリンパ節に取り込まれた放射線を皮膚の上から音で感知できます。その部位に小さな切開を加えて、色が付いて音のするリンパ節を摘出します。これを顕微鏡検査に提出して、速やかにリンパ節転移の有無を判定します。転移がなければ腋窩リンパ節郭清を省略し、転移があれば他のリンパ節にも転移の存在が疑われますので、リンパ節郭清を行います。

図1. 乳房温存手術と腋窩リンパ節の中のセンチネルリンパ節

画像検査で評価したがん病巣の範囲から1~2センチの安全域を置いて部分的に乳房を切除する。

図2. A:がんとリンパ節をつなぐリンパ管が複数ある場合にはどの経路でがん細胞がリンパ節にたどり着くかを推定できない。B:乳房ではリンパ管がほぼ1方向に限定しているため、最初にたどり着くリンパ節は1、2個で、これをセンチネルリンパ節(SLN)と言う。


2. 現在の乳がん手術法の原則と乳房再建について
乳がんの診断後には手術前に造影MRI検査などによりがんの広がり診断を行い、乳房温存か全切除かを決定します。乳がんの診断の際に触診や画像診断で明らかな腋窩リンパ節転移がみられない場合にはセンチネルリンパ節生検を行い、リンパ節転移の有無を顕微鏡検査で判定します。以上より基本的には2×2=4種類の手術方法があり(表1)、検査の結果によりいずれかの方法が選択されることになります。最も侵襲の少ない乳房温存手術と腋窩郭清省略の方法であれば、入院期間は3~5日程度で済みます。
これまで全摘のために乳房を失われた患者さんの精神的苦痛は大きなものでしたが、最近になり、過去に乳房全摘を受けられた、またはこれから全摘を受けられる患者さんに対する乳房再建手術の多くが保険適応になりました。方法としては人工物であるシリコンインプラントによる再建や、患者さん自身の身体の一部組織である腹直筋や広背筋などを用いた自家移植による再建があります。患者さんの希望があれば選択できる治療ですが、手術を受けることができるのは乳房再建手術を行う資格のある専門医師の在籍する認定施設に限られています。
以上、乳がん手術法の縮小化への変遷と現在行われている手術の内容について述べました。乳がん治療において手術は一つの手段であり、実際には薬物療法や放射線療法などと組み合わせて行われています。
表1. 乳がんに対する手術法の選択



